探査機はやぶさにおける、日本技術者の変態力
「探査機はやぶさにおける、日本技術者の変態力。」
これはねぇ、ものすごいホメ言葉なんです(笑)。
「はやぶさ(MUSES-C)」という探査機が打ち上げられたのは2003年の5月。イトカワと名付けられた小惑星に着陸し、そのサンプルを持ち帰ろうというミッション。月以外の天体に着陸して離陸するのはこの「はやぶさ」が初めてなんです。
長い長い「はやぶさ」の旅は今もなお続いており、来年やっと地球にサンプルが届く予定なんだそうです。
■はやぶさの苦難
しかしながら「はやぶさ」の旅は順調とは言えず、様々な苦難を乗り越えてきました。エンジンが壊れたり、燃料が漏れたり、バッテリーが止まったりなどなどいくつもの問題を遠く離れた地球の日本の技術者が1つ1つ解決して帰路についているという、感極まって涙が出てきそうなお話なんです。
とにかく、どんなことが起こっても対処が検討可能な技術者冥利に尽きる設計に感動しました。
ひとまず、以下の動画を。
■はやぶさの主な出来事(問題)
2003年5月9日 | M-Vロケットで打ち上げ。小惑星「イトカワ」へ。 |
2005年7月31日 | イオンエンジン1基(スラスタA)が故障。この運用は想定内。 |
2005年9月12日 | イトカワとのランデブー成功。 |
2005年10月2日 | イオンエンジン2基目(スラスタB)が故障。化学エンジンを併用して姿勢制御。 |
2005年11月12日 | 探査機ミネルヴァの投下に失敗。イトカワを外す。 |
2005年11月20日 | 約30分間イトカワ表面に着陸。月以外に着陸・離陸したのは初めて。イトカワの試料採取か。 |
2005年11月26日 | 2回目の着陸。離陸時にイオンエンジン燃料が内部に一時漏洩。2回目のイトカワの試料採取か。リンク |
2005年11月27日 | はやぶさへの姿勢制御命令伝達に不具合。漏洩した燃料による温度低下によりシステムがリセットされたのではないかと推測。 |
2005年12月3日 | 不安定な姿勢制御問題を回避するため、イオンエンジンの推進剤を直接噴射する事に。このために制御を行うためにソフトウェアの開発を開始。 |
2005年12月4日 | 姿勢制御ソフトウェアの運用開始。姿勢制御成功。 |
2005年12月8日 | 燃料漏れ発生。姿勢制御が乱れ、通信が途絶える。 |
2005年12月14日 | 地球帰還の日程を延期。はやぶさの自動安定機能が働くことを信じる。 |
2006年1月23日 | はやぶさが回復し、信号受信。 |
2006年1月26日 | バッテリーは4/11が破損し残量ゼロ、化学エンジン燃料と酸化剤の残量ゼロ。イオンエンジンの燃料の残量有。 |
2006年5月31日 | イオンエンジンの起動試験成功。 |
2007年4月25日 | 地球帰還の巡航運転開始。生き残った1基のイオンエンジン(スラスタD)と太陽光圧を利用して姿勢制御。 |
復路の第1期軌道に乗ることに成功。 | |
2009年2月4日 | 復路の第2期軌道に乗ることに成功。 |
2009年8月13日 | 宇宙放射線の影響でセンサエラーが発生しイオンエンジン(スラスタD)停止。軌道の修正を余儀なくされる。 |
2009年9月26日 | イオンエンジン(スラスタD)の再点火に成功。 |
2009年11月4日 | 残り1基のイオンエンジン(スラスタD)が中和器劣化により自動停止。 このときの4基のイオンエンジンの状態は以下の通り。 スラスタA:運用休止中。 スラスタB:運用休止中。 スラスタC:運用休止中。(中和器劣化による電圧上昇) スラスタD:運用休止中。稼働は可能。 |
2009年11月11日 | スラスタA、Bを運用して帰還開始。エンジンはボロボロの状態。 スラスタAの中和器からは電子を噴射。その電流でスラスタBのイオン源からイオンビームを噴射して飛行。これで1基分の推力があるんだそうな。リンク こんな事が出来るような回路を付けていたとは……。 |
■はやぶさ (探査機) - Wikipedia
とにかく諦めずに問題を解決して対処してきた、またはそもそも対処できるようになっている事がすばらしいですね。離陸してしまってからでは触れたり何かを足したりする事はできませんから、あらゆる事を想定して柔軟なシステムを設計することは「当たり前」だと思いますが、実際に遠隔操作で適応できているのはすごいことだと思うわけです。2007年中に帰還する予定が大きく遅れてしまいましたが、今もなお地球に向けて飛行を続けており、2010年の6月にオーストラリアの砂漠に採取した試料を入れたカプセルが投下される予定なんだそうです。実際可能性は危ういですが、最後のミッションが成功することを祈りたいところです。
■ミネルヴァのスペック
余談ですが、残念ながらイトカワへの投下に失敗してしまった探査機ミネルヴァはこんなスペックだったようです。CPU | SH-3 (SH7708)(約10MIPS) |
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メモリ | ROM:512KB / RAM:2MB / フラッシュメモリ:2MB |
OS | μITRON |
SH-3と言えば日立製の32ビットCPU。セガサターンとドリキャスの間くらいの性能です(笑)。(セガサターンはSH-2 x 2ですが) 信頼性と低消費電力という点で選ばれたのではないでしょうか。
そして、さすが日本。OSにITRONを使っているんですね!
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はやぶさの目的は、月の鉱物では観測不可能な太陽系創世時の状況を研究するためにサンプルを持ち帰る事。その他にも、世界初のイオンエンジン運用、月以外の天体からの帰還など多くの意義があります。
M-Vロケットはもうありませんが、諸外国の協力を得て「はやぶさ2」の計画が進行しているんだそうです。つまらない政治家達が夢をつぶしてしまわないかが心配です。